2018-01-01から1年間の記事一覧

緒永廣康 「ソメチメス」(sometimes)55

35.ただその四十分の為だけに(「告別演奏會顛末記」その後)(17) 『変わってないな』六年前二週間余りの間、ずっと閉じ込められていたその建物を、 クマは久し振りに見てそう呟いた。そして正面玄関から中に入ると、ひんやりとして少 し消毒液の臭い…

緒永廣康 「ソメチメス」(sometimes)54

34.ただその四十分の為だけに(「告別演奏會顛末記」その後)(16) 1964年10月、そこでは世界93か国の色とりどりの国旗がはためき、「より早 く、より高く、より強く」をスローガンに、バレーボール、レスリング、サッカーとい った競技が行わ…

緒永廣康 「ソメチメス」(sometimes)53

33.ただその四十分の為だけに(「告別演奏會顛末記」その後)(15) 「クマさん、こんにちは」特に待ちわびていた訳ではないが、顔を上げるとそこには チャコが立っていた。 「今度、世田谷区民会館に出るんですって」それを聞いてクマは、少し目を大き…

緒永廣康 「ソメチメス」(sometimes)52

32.ただその四十分の為だけに(「告別演奏會顛末記」その後)(14) 結局その日、バンド名は決まらなかった。その一番の原因は誰も気の利いた名称を思 いつかなかったからだ。それでも文化祭準備委員会に出演申請の手続きをしなければな らない。「取敢…

緒永廣康 「ソメチメス」(sometimes)51

31.ただその四十分の為だけに(「告別演奏會顛末記」その後)(13) 「今を尊ばなければ一体 ”いつ” という時があるのか」確かにクマはそう言った。しか し、そうは言ってみたものの具体的に何をすればいいのか、彼自身全く見当もついて いなかった。『…

緒永廣康 「ソメチメス」(sometimes)50

30.ただその四十分の為だけに(「告別演奏會顛末記」その後)(12) 「でもほんと、何やる」今度はアグリーが言った。等々力のヒナコの家では、カセッ トテープ聞き終えても四人の話は全く進んでいなかった。 「とにかく何か面白い事がいいな。あっ、面…

緒永廣康 「ソメチメス」(sometimes)49

29.ただその四十分の為だけに(「告別演奏會顛末記」その後)(11) ヒナコは迷っていた。確かに歌を歌うことは子供の頃から好きであったし、また得意 であると自覚もしていた。どんな曲でも二三回聴けば覚えられ、音を外すことも無かっ た。そして体を…

緒永廣康 「ソメチメス」(sometimes)48

28.ただその四十分の為だけに(「告別演奏會顛末記」その後)(10) その日、等々力にあるヒナコの家にムー、アグリーそしてクマの四人が集まり、記念 すべき第一回目のミーティングが開かれた。あの2年4組フェアウェル・コンサートか ら二か月余り、…

緒永廣康 「ソメチメス」(sometimes)47

27.ただその四十分の為だけに(「告別演奏會顛末記」その後)(9) クマはまた深沢八丁目のバス停へ通じるいつもの桜並木を歩いていた。女性司書教諭 との会話に示唆されるところはあったし、なにより人見知りもせず自然に話が出来た事 が嬉しかった。 …

緒永廣康 「ソメチメス」(sometimes)46

26.ただその四十分の為だけに(「告別演奏會顛末記」その後)(8) 「クマくん」若い女性司書教諭はそう声を掛けると、直ぐに「あなたに悪いニュース があります」と、外国映画の台詞を直訳したかのような表現で続けた。しかし、それを 聞いたクマは別に…

緒永廣康 「ソメチメス」(sometimes)45

25.ただその四十分の為だけに(「告別演奏會顛末記」その後)(7) 昼休みが終了し五時限目の授業開始のチャイムが鳴り始めても、クマは図書室から出 ようとはせず、机の上のレポート用紙の束を前に座ったままだ。昨夜から殆ど一睡も 出来なかったせいで…

緒永廣康 「ソメチメス」(sometimes)44

24.ただその四十分の為だけに(「告別演奏會顛末記」その後)(6) まだ春休みだった四月初め、明治神宮での初デートで、二年間恋焦がれ続けたナッパ といきなり口論をしてしまい、それ以来クマは少し冷却期間を置いていた。いや、その 表現は正しいとは…

緒永廣康 「ソメチメス」(sometimes)43

23.ただその四十分の為だけに(「告別演奏會顛末記」その後)(5) アグリーとヒナコを振り切って校舎を出たものの、クマは深沢八丁目のバス停に続く いつもの桜並木を歩きながら、また考え事をしていた。 そんな彼とは逆方向に歩く若い女性の集団が、声…

緒永廣康 「ソメチメス」(sometimes)42

22.ただその四十分の為だけに(「告別演奏會顛末記」その後)(4) 「い、や、だ。くどいよ。何でもいいからオレを巻き込まないでくれる」クマはいつ になく声を荒げた。 五月下旬、デューク・エリントン死去の報が世界中を駆け巡っている頃、ジャズとは…

緒永廣康 「ソメチメス」(sometimes)41

21.ただその四十分の為だけに(「告別演奏會顛末記」その後)(3) 「クマさーん、お客さーん」 三年でもまた同じクラスになったメガネユキコが、彼ら の部屋、三年一組の出入り口からそう呼んだ。クマが何事かと訝しがりながらそこまで 行くと、全く知…

緒永廣康 「ソメチメス」(sometimes)40

20.ただその四十分の為だけに(「告別演奏會顛末記」その後)(2) そして1974年4月、部員数わずか11名の池田高校野球部が、春の甲子園で準優 勝した事を称賛する余韻がまだ残る頃、クマはたった一人で新たな戦いを始めていた。 高校3年になって…

緒永廣康 「ソメチメス」(sometimes)39

19.ただその四十分の為だけに(「告別演奏會顛末記」その後)1. 予告 ずっとこのブログの事が気になっていた。幾つかの下書きも残っている。それでも更 新に至らなかったのは単に怠慢と言うよりも、新たに始めた「風のかたみの日記」とい う短編を主体と…