緒永廣康 「ソメチメス」(sometimes)37

小休止(3)  貼り忘れた写真(或いはカナユニ再訪)

 

 私はレストラン・カナユニについて、このソメチメス(32)から(36)、約12,300文字、

凡そ原稿用紙31枚を費やし私見を述べた。残念ながら元原稿から削除した部分を含めれ

ば、安易な卒論程度の量にはなったと思う。しかし何時もの悪い癖で脇道に逸れ、余計

な記述が散見された事も認めざるを得ない。漸く(36)を公開した時は店を訪問してから

早一ヶ月が過ぎ、私は無性にまたカナユニに行きたくなっていた。脱稿記念、前シリー

ズで紹介しきれなかった美味しい料理等々、自分を納得させる理由は幾らでもある。私

は迷わず店に予約の電話を入れた。

 小田和正の歌の文句では無いが、「どれだけ言葉を尽くしてみても、確かめられない

物はあるだろう」に触発され、今回は出来る限り言葉による虚飾を廃し、視覚に訴える

事とする所存。目標!、ワン・ステージ完全燃焼!! と宣言しながら、既に420文字を

浪費。さあ行こう、ワトソン君!?

 そして4月14日17時、私はまた店の扉を開ける。笑顔で出迎える横田誠氏に先

だっての帽子返送の礼を述べこの店の一番上席に案内される。奥の中央だ。直ぐに相方

も到着、先ず食前酒にシェリー、その後のシャブリと「漁夫のサラダ」「エスカルゴ」

をオーダー。すると乾杯をしている我々の前に突然肉の塊が現れた。(写真1)

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      <写真1> カナユニ自家製ハムの塊

 これは勿論、私が写真を撮りに来た事を知るオーナーの気遣いと分かってはいるが、

見た以上食べたくなるのが人情ってものだ。少し切って貰う。(写真2)      

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           <写真2> 横田誠オーナー自ら執刀?

そして出来上がり。(写真3) 味はGood。尚、これはいつもある訳では無い。 

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                         <写真3> カナユニ自家製ハム

 次に懐かしい「漁夫のサラダ」が来る。(写真4) 

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               <写真4> 漁夫のサラダ(Seafood Salad)

まあサラダなので、ずば抜けて美味しいと称賛は出来ないにせよ、貝類とのマッチング

は良く、彩り抜群、何より最初からシェアされて出て来るのがカナユニの姿勢を示して

いる。因みに私は初めて海老を頭から行ってしまったが、やはり止めておけば良かった

と思った。

 そうこうしている内に、注文していない一皿が運ばれた。(写真5)これは一体?

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                                                <写真5> 品名不明 その1

白身魚の衣焼きのようで実に美味。オーナーに聞くと「白魚のチジミ」みたいな物との

回答、試作品か? しかし美味しい旨伝えると喜んでいた。白魚は旬でもあり期間限定

メニューになるかも知れない。

 そしてお待ちかね「エスカルゴ」の登場!(写真6)           

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                                                          <写真6> エスカルゴ

何年振りだろうか。身を食した後、残ったガーリック・バターにパンを浸す。カロリー

が気になるところではあるが、そんな事を言っている場合では無い。あっと言う間に

完食。美味しかった。

 エスカルゴの余韻に浸っている時、またしても注文外の品が届く。(写真7)             

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                                                   <写真7> 品名不明 その2

ソラマメとじゃが芋主体、味は良い。小さな器ながら底に新じゃがの小片あり、結構腹

に溜まる。ところで今日は何故オーダー外の品が出るのだろうか? 我々へのサービス

か、それとも我々がモニターなのか。もし後者だとしたらグルメでも無い感想を述べた

事を悔やむしかない。

 今日は極力アルコールはセーブし早めの帰宅を期していたので、シェリーの後のシャ

ブリと赤ワインに留める事にした。赤ワインを注文する際、オーナーから希望を聞かれ

た私は、よく判らないのでコストパフォーマンスが高いのを、と情けない返答。ワイン

リストで示された品を見たが暗くて価格も見えず了承。更にテイスティングを求められ

一応作法に従い承認。デキャンタに移されグラスに注がれた。(写真8)          

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        <写真8> 右からシャブリ、高CPの赤ワインとそれを入れるデキャンタ

 普段飲んでいるネジ巻きキャップの安ワインとは格が違う、この程度のコメントしか

出来ない自分に対し、今更不満を感じても仕方ないと開き直る。

 それより愈々今夜のメインの登場だ。おもむろに簡易テーブルが我々の側に置かれた

と言えばそのメニューは歴然。そう、タルタルステーキの準備が始まった。(写真9)

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        <写真9> スタッフがタルタルステーキ最終調理中。微かに今井亮太郎氏を望む

 尚、この日の生演奏は今井亮太郎というピアニストが出演。アントニオ・カルロス・

ジョビンを中心に軽快なボッサをプレイ。途中2曲、客の女性ボーカルと即興セッショ

ンのサプライズがあった。

 そして準備完了。殆ど10年近くの時を経て目の前に置かれた。(写真10)

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        <写真10> カナユニのタルタルステーキ(Tartar Steak Kana-Yuni)

 添えられたパンに、卵黄、ケッパー他、香味野菜を混ぜた生牛肉をスプーンですくい

乗せて食べる。味は各人でご賞味頂きたい。

 また、好物のビールを一滴も口にしなかった私は、定番サン・ビッツの注文も忘れず

疑問が残った特製タレについて聴取すると、粒マスタードにさらし玉ねぎ、だし醤油と

の回答。私のセロリ説は見事に砕け散った。

 やがて帰宅予定時刻を迎え、別室に立った私は途中壁に掛かった写真の前で足を止め

る。(写真11)

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                          <写真11> 横田宏氏。偏光フィルターの必要性をこれ程感じた事は無い。

先代オーナーの優し気な笑顔が、この店に集う者を見守っているような気がした。そし

て辞する際、前回同様、横田誠オーナーの丁重な見送りを受け、私は思わず敬礼で答え

たのだった。

 

 勿論、世界のあらゆる美味が一堂に会すると言っても過言ではない東京で、このカナ

ユニというレストランは取るに足らぬ存在かも知れない。それでも私はこの店が好きだ

し、必ず再び扉を開くに違いないだろう。

 そうすれば、そこはもうJohn Coltrane Quartet が奏でる心地よい "Ballads” の世界。

昔訪れたモンマルトルか、「Black Cab」と呼ばれる対面シートのロンドンタクシーの

車内か、それともサンマルコ広場の喧騒から離れたリゾ島の由緒あるホテルの一室

か…。たとえ何処であれ、きっと其処に佇む私がいる筈だ。<終>

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      *      *      *      *      *

 

 ひとつ嬉しい知らせがあった。私がソメチメス(34)に添付した<写真1>カナユニの

外観を、Googleマップの所在地訂正の際投稿したところ、閲覧回数が100を超えたとの

メールを受取り、確認したところ170余りあった。やがてここが予約も取れない店に

なったとしても本望である。

 村上春樹の小説のタイトル「羊をめぐる冒険」ではないが、冒頭に述べた通りソメチ

メス(32)に始まったカナユニに関するブログは、今回をもって漸く「Final Odyssey」を

迎えた。しかし私のもとには、ある人から自作料理の画像が幾つも送られて来ており、

これに如何に真摯に対応するか、稚拙な表現力しかない私の真価が問われそうな予感が

している。<2018年5月>