緒永廣康 「ソメチメス」(sometimes)34

小休止(2) 新生老舗レストランを南青山に訪た <その3>

 

 「追伸。カナユニオーナーの息子さんマコトさんが南青山にカナユニをオープンさせ

たそうです。」今年3月初旬、それを伝えたのは私の近況報告メールに対する、赤坂の

知人(以下、T氏という)からの返信だった。私はそれまでも時折カナユニのオフィ

シャルサイトを覗いては、閉店以降全く更新されていない事を確認していたが、早速

ネットで検索、それらしき情報を入手、T氏と打ち合わせの上、予約の電話を入れた。

その際「当方で何か用意しておく事は」との懐かしいフレーズを久々に聞き、忘れかけ

ていた心の高まりのようなものを覚えた。

 当日、我々は地下鉄銀座線「外苑前」で待ち合わせ、新生カナユニへ向う。実は私は

二年程前から腰痛が酷く精密検査の結果、腰部脊柱管狭窄症と診断され、杖をついても

長距離の歩行は困難で、特に階段の昇り降りは苦行に等しい。地下から地上に出る最後

の階段を、私は「十億マイルもやってきたんだー最後の六十マイルでとめられてたまる

ものか」と殆ど「2001年宇宙の旅」のボーマン船長のような心境で上った。

(いかん! また話が脇道に逸れそうだ)

 店への道は判り易かったが、私は足腰の消耗から何度も立ち止まりスマホで位置を確

認、その度にT氏は並行する路地を見に行ったり、私を待たせて先を探しに行ってくれ

た。そして遂に我々は新生カナユニに到着したのだった。

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       <写真1>カナユニの外観、右上と入り口に昔と同じ鍵🔑のマークが見える。

 午後五時、開店時刻丁度に扉を開け入店。以前と同じように室内の照明は控えめ、

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                      <写真2> 

テーブルに置かれた蝋燭の灯の揺らめきに、過ぎた昔が蘇った(写真2参照)。私は心

に安寧感をもたらすこの薄暗さが何故か好きだ。店内は開店直後なので勿論他に客は無

く、直ぐに奥から二代目オーナー横田 誠氏が笑顔を浮かべ出て来て迎えてくれた。どう

やら我々二人の事を覚えていてくれたようで私は妙に嬉しかった。席に案内され先ずは

シャンパンをオーダー、言葉にはしなかったものの我々の再会とカナユニの再開を祝し

乾杯。尚、この店でシャンパンとして出して来る以上、少なくとも単なるスパーリング

ワインでは無くシャンパーニュ地方の物のはずだ。(写真3)

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      <写真3>         

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                    <写真4>手前にルーペが付いている (決して我々専用では無い)

 その後、おもむろにメニューを開く。元赤坂時代と全く同じだ。(写真4)それは決

して経費節減を図ったのでは無く、先代オーナーが試行錯誤のすえ作成したものを大切

にしているのだと思った。そしてオーダーをする。かってならば「漁夫のサラダ」から

始めていたが、今回は「季節の野菜サラダ」と「トマトスライス・サラダ」(写真6)に

「きのこのソテー」(写真7)。T氏からは、まるで菜食主義者かとの疑問が呈されなが

らも、私は頷きながら笑って了承を求めた。

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    <写真5> 敵(笑)は早くも白ワイン突入

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                   <写真6> サラダ2種 奥が(小池さんの)トマト

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                                                                          <写真7> きのこのソテー 左上に微かにフランスパンが見える

 「季節の野菜サラダ」はさっぱりしており、「トマト」に関しては以前マコトさんの

このトマトの生産者は小池さんだという事を記憶していたので、今回敢えて誠オーナー

に生産者は小池さんかと訊ねたところ、彼は笑みを浮かべ「仰る通りでございます」と

の回答をしてくれた。また私は若い頃から根っからのビール党で、幾ら飲んでも別室に

立つ事は無く学生時代「ナショナル収納壁」と呼ばれたり、社会人になった当初は遠慮

していたがある程度の立場になって以降、ビール飲み放題の状況を確立した。何故この

ような話をするのかと言えば、旧カナユニには大ジョッキならぬバケツという器があ

り、試しに頼んだところその名の通りガラス製の小型のバケツが出て来て驚愕した事を

思い出したからだ。今回はさすがに前立腺が悲鳴を上げそうなので敢えて確認はしなかっ

たが、もしあの器が今でも保存されているならば流行りの「インスタ映え」する事間違

い無い。尚、私は多分一般的飲酒者の三倍以上ビールを飲んでいると思う、しかし未だ

に尿酸値は基準値以下のままである。

 「きのこのソテー」は初めてオーダーしたような気がする。小型のマッシュルーム

を塩コショウで軽く炒めた感でありながら、酒のつまみにはもってこい。油は使ってい

ても素材にカロリーは無くヘルシーなのが良い。またこの品に限って鉢植えの植物を描

いた取り皿が用意され、T氏は思わずお洒落と一言呟いた。その間にお馴染み表面のみ

アツアツ・カリカリのフランスパンが運ばれ、やはり美味しい。(写真7) 更に我々の

手元には割り箸がそれとなく置いてある。これは以前、元赤坂からの私的所望で、

それを覚えていてくれたのかと感動した。やはりこの店の「オ・モ・テ・ナ・シ」の

精神は只者では無く、あの東京五輪招致スピーチをした滝川クリステル嬢の美貌に勝っ

ていると思う。(もし二者択一を問われれば迷わず後者を取るが)

 さて、次なるメニューは我々が本当に二者択一をする事になる。即ちカタツムリか

ムール貝かだ。以前は交互に選んだと記憶するものの、久々であるしどちらも捨てがた

く、かと言って両方頼めばメイン迄辿り着けそうも無い。我々は若干の協議の結果、

ムール貝を選択した。(写真8)

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             <写真8> アリカントムール貝(ガーリックトースト添)

 尚、ここのエスカルゴはあの面倒な器具(エスカルゴ・トング?)で挟み、フォーク

でほじくり出す必要は無く、タコ焼きの鉄板に似た専用(皿?)でガーリック&パセリ・

バターと共に提供され身を食べた後、残ったソースにパンを浸して食する。非常に美味

である。因みにT氏はムール貝を食べ終わった後、オリーブ油、サフランと貝汁からな

るスープにパンを浸していた。そして少し首を傾げながら、味付けが以前より濃くなっ

たのではないかと疑問を呈す。言われてみれば確かにそんな気もするが、それは我々が

歳を重ね、次第に薄味志向が強まった可能性も捨てきれず、また現に我々は完食してい

る訳であるから、それ程大きな欠点では無いと考えるべきかも知れない。本職のリポー

ターならばどう表現するのだろう。「味付けもしっかりしていて、これは本当に美味し

いですね」とでも言うのだろうか。<続く>

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 本来ならば今回でこの話題は終了予定であったが、初めての画像挿入や何時もの事な

がら余計な著述が多く、一旦ここで分割する事とした。ここまでメールで励ましてくれ

たT氏に感謝、漸くトンネルの出口が見え始めた。次回こそファイナル・オデッセイを

期して。(2018年3月)