緒永廣康 「ソメチメス」(sometimes)32

小休止(2)  新生老舗レストランを南青山に訪た <その1>

 

"此処は何処なのか。
 キャンドルが揺れているからピアノが鳴って
 いるのだろう。
 だがそれは現実の音ではないようだ。スペインか
 ポルトガルか…30年以前の昔だ。
 夢に憑かれたように歩いたフランスの何処かか。
 ピアノの調べが遠くなる…。
 そして何故か私は古びた階段を登ってゆく。
 すると冷やかな風が流れ出し入口に星が見えた…。

 仰ぐと紛れもなくそれは元赤坂…。
 夜空のタペストリー。" (※以上、旧カナユニ・ホームページから引用)

 

 「カナユニ」は1966年、オナー横田 宏 氏によって元赤坂にて創業されたフレン

チ・レストラン。店名の由来は「カナ」り「ユニ」-クだと言う。ここは後にベスト

セラーとなるオニオングラタンスープを、かの三島由紀夫に絶賛せしめたり石原裕次郎

他、多数の著名人を顧客に抱え、また現在ではすっかり定着した感のあるボージョレ

ヌーヴォーを日本で初めて紹介した等々、それら逸話の枚挙にいとまは無い。

 私がこの店を知ったきっかけは、十数年前、当時勤務先の社長から、他所の社長を接

待する事になったので付き合って貰いたい、ついては場所を何処にするか何かアイディ

アはあるか。との提案を受け、長年営業部門にいた私はそれまでの経験から、接待なら

和食の懐石であれば先ず滑る事は少ないので、超一流とは言えないにせよ、そこそこの

割烹の名を幾つか挙げたところ、客はどうも洋食が好きらしいとの返事。私は、だった

らそれを先に言えよ、と内心思いながら、客である社長の部下の取締役や部長は知って

いるので、ちょっと情報収集してみます。と答えると、社長はそれなら自分の心当たり

がある店でいいかと言うので勿論異論無く、お願いしますと答え退出した。その日の夕

刻、社長がメモを持って 私の所に来た。ここを予約したので宜しくと言う、それを見る

と、店名に「カナユニ」とあり、後は所在地、電話番号が記入されていた。私は全く

知らない名であり、その不思議な店名の意味を訊ねると「かなりユニーク」との回答。

実は私は予てより社長の食に対するセンスに甚だ疑問多々あり、ましてやカナユニなど

と言うおチャラけた名の店に対し、一抹どころか多いなる不安を抱いて出掛ける事と

なった。

 さて、社長に連れられ店の前に着くと特にそれらしき表示は無く、唯、大きな鍵を

模った看板が掲げられていて、その斜め下ある扉を開け階段を下り再び扉を開けると、

目の前に「カナユニ」のほぼ全景が広がる。照明は控えめ、各所に置かれた蝋燭の灯り

を際立させている。右手にはグランドピアノとコンパクトなPAシステム、左手には

一段高いバーカウンターがあり、それを花飾りで区切り四人掛けを基本としたテーブル

席という構成だった。私達は予約席に案内され食事を始めたが、我が社長お勧め、牛肉

タルタルステーキなるメニューをオーダーすると、目の前に折りたたみ式の台を広げ

なんと生肉のミンチに、香味野菜か果物らしきみじん切りと香辛料を混ぜ皿に盛ってく

れる。あまり的確な例えとは言い難いが、朝鮮料理のユッケを思い浮かべて欲しい。勿

論、味は全く違う。

私は美味しいと思ったが客二人(社長と常務)は殆ど手を付けず、我が社長のユニーク

な作戦は見事失敗に終わった(だから懐石料理にしておけば良かったのに)。しかしエス

カルゴや他のメニューには満足して貰ったように見えた。

 この店のフロアースタッフはブラックスーツかベストに黒の蝶ネクタイ着用、物腰は

柔らかく丁寧、客を不快にする要素は微塵にも感じられない熟練のプロフェッショナル

で、勿論料理も雰囲気も素晴しく私は入店後1時間もしないうちにすっかり虜になって

いた。

 その夜は二次会も無く無事に終了帰宅。社長の店選びのセンスを改めて見直した私

は、翌朝社長室に行き昨夜の礼など述べた後、一体どうやってあの店の存在を知ったの

か訊ねたところ、以前商社勤務だった頃、同業他社や顧客同世代で定期的に「お勧めの

店」を紹介しあう会にて知ったとの答え、私は「やっぱりね」と妙に納得した。

 それでも私のカナユニへの興味は尽きる事無く、それこそもっと奥床し(見たい、聞

きたい、知りたい)気持ちを抑えられず、あれこれ手段を考えるようになった。最も

手っ取り早いのは、私の顧客か業界他社の先輩達を接待する事だったが、何故か皆大酒

呑みばかりで、日本酒、ウイスキー・ワイン、白酒・紹興酒、比較的安価と思われる

焼酎も、亀の雫、百年の孤独ガルシア・マルケスのパクリか?)等を腹一杯飲むよう

な連中。こっそりスナックに無理を言ってキープしたジョニーウォーカーの青ラベルも

次に行ったら蒸発していた(最も業界の先輩方々には、それ以上にご馳走になったが)。

そのような人達をカナユニに招待するのは、料理はともかく酒手だけでとんでもない

リスクを負う可能性大で、ゴルフを一組セット出来るかも知れないと、情けない事に

思わず躊躇せざるを得なかった。<続く>

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 特段紙幅に制限は無いと思うが、あまり長くなると後のチェックに手間取る為、今回

は旧カナユニとの出会いに終始してしまった。今のところの予定では、間を置かず

次回もこの続き、最終回に題目に合わせ、写真など織り交ぜながら新生カナユニの食

レポを試みるつもりなので、是非ご期待願いたい。目標は今週末までに完結する事だ

が、危惧するのは竜頭蛇尾と途中棄権。(2018年3月)