緒永廣康 「ソメチメス」(sometimes)11

9.『テグジュペリとリヴィエール』1.

 アントワーヌ・ド・サン=テグジュペリは、先ず職業飛行家であり、そして作家

である。その事実を抜きにして、彼の文学を考える事は出来ない。彼は自分の職業

を通して多くの事を語っているが、この彼にとって二作目にあたる「夜間飛行」

でも、同様の事が言える。

 当時、未だレーダーなど装備されていない時代である。夜間飛行は非常に危険

な行為であった。それを続ける航空便会社の支配人リヴェールは次のように語る。

「せっかく汽車や汽船に対して昼間勝ち優った速度を、夜間に失うということは、

実に航空会社にとっては死活の重大問題だ。」(新潮社版『夜間飛行』堀内大學

訳68頁)それに対し彼の部下達は、彼を非難しながらも飛び立って行く。彼等を

そうさせるものは一体何なのか。そしてリヴェールと彼等を繋ぐものは。

 

 リヴェールはあくまでも強い人間であった。厳格であり、部下の些細な過ちに

対しても懲罰を加える。彼は言う「僕は、自分が公平だか、不公平だかは知らない。

唯、僕が罰しさえすれば事故は減少する。責任の所在は、人間ではないのだ・・・

もし僕が公平だったりしたら、夜間飛行は、一度一度が、致命的な危険を伴うものに

なるはずだ。」(53頁)彼が罰するものは人ではなく、その過失だが、彼の部下達に

とっては、罰せられるられるのは自分達以外の何者でも無い。リヴェールはまたこうも

言う。「愛されようとするには、同情さえしたらいいのだ。ところが僕は決して同情は

しない・・・僕だとて勿論、自分の周囲を、友情と人間的な温情で満たしておきたい

のはやまやまだ・・・。」(66頁)「部下の者を愛したまえ、ただそれを知らさずに

愛したまえ。」(44頁)彼をここまで強く支えるものは何か。これについて、アンド

レ・ジイド はこう言っている。「愛よりも大きい力を持った隠れた義務の観念」が

リヴェールを支配していると。しかし彼は決して非人情なのではない。そこに彼の

「超人」が感じられる。彼は自分の精神を吹き込むべく、敢えて部下を攻め続ける。

だが、その英雄的行為の前に部下達は死んで行く。「人間の生命には価値はないかも

しれない。僕らは常に、何か人間の生命以上に価値のあるものが存在するかのように

行為しているが・・・。」(84頁)彼は常に自問自答を繰り返す。人が追い求める

幸福というものが、老と死によって破壊される前に「個人的な幸福よりは永続性のある

救われるべきものが人生にあるものかもしれない、人間のその部分を救おうとして、

リヴェールは働いている」(85頁)そして英雄になるのは自分ではなく、部下達である

ことを彼は知っている。行方不明の部下の妻との会話の中に彼は「家庭的な、説明しよ

うのない、非人道的な貧しいランプの光に照らして自分自身の真実を発見するのだっ

た。」(84頁)彼の優しさは鋭く研ぎ澄まされた完全な愛の中にある。そして「リ

ヴェールとその配下の操縦士たちは、心の奥で、人知れぬ友情に結ばれていた。結局、

彼らはすべて、同舟の輩(ともがら)であり、打ち勝とうとする同じ欲望に燃える人

たちだった・・・。」(67頁)<続>