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緒永廣康 「青春浪漫 告別演奏會顛末記」 19

11. 「せっかく・・・」センヌキが恨みがましく非難した

 会場を三年四組に移して、マイクのセッティングやミキシングの調整が行われ、それが終わるとナッパから

春休みに行う最期のクラス合宿の説明があった。彼女の服装は白のブラウスに黒く細いリボンを垂らし、白い

毛糸のベスト、淡いピンクのミニスカート、そして白のハイソックスと、まるでアグネスチャンの衣装その

ものだった。

 客の入りはパラパラと三十名程度、その内の1/3 は出演者とスタッフだったが、女生徒に絶大な人気がある

「まり子先生」こと米原教員が来ている事が異色と言えば異色だった。それでもクマやアグリーが充分満足

していたのは言うまでもない。昨年12月に話が持ち上がったコンサートは、今まさに始まろうとしている。

クマがミュートしたギターでリズムを刻み、センヌキが歌い始めた。名曲「青い目のジュディ」の最後のリフ

レインである。予定では続いてアグリーが3度下、クマが3度上という風に3パート・ハーモニーになる筈で

あったが、センヌキは自分のパートをキープ出来ず、下につられたり上についたり、要は音を外しまくった。

しかし、途中で止める訳にいかず、エンディングだけ何とか決めて、次はニール・ヤングの「オン・ザ・ウエ

イ・ホーム」、グレアム・ナッシュの「ティーチ・ユアー・チルドレン」と、もろC,S,N & Yのアルバム

「4way street」のコピーで通し、途中オリジナルを挟んで最後はやはりC,S,N&Yの「愛への賛歌」で

しめた。と言えばカッコいいが、スペアのギターが無い彼等はチューニングの変更に手間取り、その間誰も

MCをする余裕がなく、皆を白けさせた。いつの間にか現れたアガタの「もう、止めちゃえよ」と言う言葉

が妙に現実性を帯びて聞こえた。その点で言えばクマのギター1本でやった曲の方が余程纏まりが良かった。

  次はサチコである。彼女はその日の朝、風邪でいつもの美声?が出ないことを理由に、出演を取り止める

とクマに申し出ていた。本当はどうでもよかったクマだが、一応なだめたり、すかしたりして出演させたので

あった。サチコは確かに鼻声で喉の調子もいまいちだったが、演目をすべて歌い切った。「うたたね団」は

ぶっつけ本番で伴奏したがまずまずの出来であった。

 続いての登場は、憎んでも余りあるHIM(ヒナコ&ムー)である。奴等は最初30分と報告していたにも

拘らず、延々一時間以上もやりやがって完全にコンサートの主役になってしまった。『だいたいヒナコという

女は、よそのクラスまで来て態度デカくよくやるなぁ』と、日頃図々しいと皆から言われているアグリーで

さえ、すっかり感心してしまった。彼女達はヤマハ提供の「コッキーポップ」というラジオ番組で放送されて

いる曲や、ムーの自作曲を冗談を交え次々と歌う。ムーのギター演奏は相変わらず酷かったが、ヒナコの歌声

は素人離れして妙にセクシーでもあった。最後オフコースの「でももう花はいらない」で打ち上げた。クマは

その曲を初めて聴いたが、なかなかいい歌だと思った。やはり歌は曲と歌詞、そしてボーカルの技量であっ

て、些細なギターテクなどある意味どうでもいい事なのだ。それをクマ達は思い違いしていたのだった。

 そしてナッパは腹山と共に1曲歌い、あとはソロである。彼女の出番を後ろに持って来たのは、先にやって

帰ってしまわないようにと、ここでもクマの考え過ぎとも思える、緻密で万全な計算が働いていたのだ。

ナッパは例のカラオケが多少功を奏したのか、かなり難はあるものの「うたたね団」の伴奏に何とかついて

きたが、ラストの「あなた」で勇んでベースを持ち上げたクマは伴奏を断られてしまった。「あの~」ナッパ

は言いにくそうに小さな声で言った。「いいです。伴奏があるとかえって歌えないの。」アグリーをはじめ

「うたたね団」は声を上げて笑った。あの練習の状況を考えれば、それは当然と思われたが、センヌキはクマ

の気持ちを代弁するかのように、「せっかくベースの人が一生懸命やろうと思ったのに!」と恨みがましく

非難した。その一言は気の弱い彼にしては、よく言ったと後々まで語り草となった。

 「ゴ、  ゴメンナサイ」ナッパは本当に申し訳なさそうにクマを見た。その時、彼女はこの曲を下手な伴奏

などに惑わされることなく、心を込めて歌いたいのに違いない。クマはそう思った。

 「深沢うたたね団」は和洋、オリジナル等種々取混ぜ演奏したが、基本的にエレキは得意としておらず、

クマはリードギターとベースを持ち替え奮闘したが、あまり結果がついて来なかった。「・・・6700」も

期待した程受けず、ボーカルが殆ど聞き取れない最悪のパフォーマンスを露呈、それでもラストの「オハ

イオ」をクマとアグリーのツインリードで図々しく9分もやって、またみんなを白けさせた。

 最後はクマ達の呼びかけに全員立ち上がり、チューリップの「心の旅」をSING OUTして、3時間に

わたるフェアウェル・コンサートのすべてのプログラムが終了した。<続>