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緒永廣康 「青春浪漫 告別演奏會顛末記」 13

7.「ごちゃごちゃ言ってんじゃねーよ」アガタは迫力ある顔にものを言わせた(1)

 クマ達はその日、機関誌 "DANDY" 最終号の編集の為、試験休み中ではあったが登校した。一番最初に教室

に入ったクマは、女子が数名いるのを見て一瞬驚いたが、すぐに『クラス合宿の打ち合わせだな』納得しな

がら、何か世間話でもしようか迷っているうちに、彼女達に背を向けて座っている自分に、相変わらずの不甲

斐なさを感じた。2-4インケングループは、彼の侵入を拒んでいるかのように、冷たい雰囲気を辺りに漂わ

せていたのだ。ところが、彼がおもむろにボールペン原紙を取り出そうとした時、ナッパを始めニッカ、ホナ

ミといった連中が突然、彼に詰め寄って来た。クマは差し迫った危機感に生唾を飲み込んだ。『何だ、何だ、

俺は別に何も悪い事はしていないもんね・・・』

 「あの~、歌の伴奏はどうなっているんですか?」例のアグネスチャンの歌声をトレブル目一杯上げたよう

な声だ。クマは適当な言葉が見つからず、目を少し大きく開けて『どういう意味?』といった表情を作った。

ナッパは優しい微笑みを浮かべて、「コンサートの時、伴奏を付けて下さるんですか?」と改まって言った。

「えっ? あれ~、そちらで用意されるんじゃないんですか? だったらこちらでやらして頂いてもかまいま

せんが。」クマは緊張すると妙な敬語で喋る癖がある。『それにしても、すべてこちらの思惑通り、なんと

我が計算の鋭さ!』彼は思わず笑えて来ちゃってしまいそうな顔を必死にこらえ「それじゃあ伴奏の練習し

ときます。」と上擦った声で了解した。

 インケンの一団が去って、アガタが例のボーカルアンプを抱えてやって来た。クマはすかさずこの吉報を

伝える。彼は返事の代わりに、手で顎を摩りながら得意のヨダレを啜る音で、それに答えたのだった。

 ”DANDY" の編集を終え、午後からセンヌキの家に集まったクマ達「深沢うたたね団」は、ナッパのバック

をつつがなく務める為、急遽歌謡バンドに変身。尚、アガタは何とか用事にかこつけ、またしても不参加。

日頃、歌謡曲や和製フォークソングを軽蔑しているクマは、何の抵抗もなくAm-Dm-F-G-Eといった類の単純

コード進行を受け入れ、まだ風邪でひっくり返っているアグリーの居ぬ間に、すべてのパートを決め、彼の

出る幕を無くしてしまった。『だけど奴め、きっと出しゃばってくるぞ』とひとり呟いたクマの脳裏に、突然

名案が閃いた。

「ところで諸君!」彼は自信溢れる声で静かに言った。「僕等はこうして練習し、ある程度纏まってきた。

しかし、より完璧を期す為、歌と合わせてみる必要があるのではないか? ついては明日、ナッパをここに

呼んで合同練習したいと思う。」

センヌキは『お前の魂胆は見えてるぞ』という顔つきで、しかし嬉しそうに「それはいい考えだ!」と叫び、

カメ達はヤレヤレといった感じで了承した。

 その日、家に帰ったクマは早速ナッパに電話を架け、帰宅途中バスの中で考え抜いた言葉を機関銃のように

まくし立て、合同練習の必要性を語った。

「だから、やっぱり、やっておく必要があると思うんですが・・・」

「はい、ちょっと腹ブーにも相談してみます。」ナッパは相変わらずアグネスチャンの歌声のピッチを上げた

ような声で答えた。クマにとっては無論、一部共演する腹山などどうでもいい存在だったが、しかしあから

さまにそう言う訳にもいかず、「腹山さんの都合が悪くても、一人でも来て下さいね。」と念をおして電話を

切った。

暫くしてナッパから返事があった。「腹山さんは来れないって・・・」 『だからどうしたってんだ! 俺は

腹山の都合なんか聞いちゃあいないんだよ!』と心の中で叫びながら、「それは残念ですね。」とクマは言

た。「それでナッパさんはどうするんですか?」、「はい、ええ~っと、一応お願いしようかなって思って

いるんですけれども。」

 結局、彼女は翌日、クラス合宿の打ち合わせで登校するので、それが終わったらセンヌキの家に電話を入

れ、誰かが迎えに行くと決まった。

思えば "DANDY" の記事で彼女に泣かれてから、1か月も経っていない。アガタの言った通り、事態は進展

したのだ。遅れ馳せながら訪れた所謂「青春」に、クマは大声を張り上げたくなるような歓喜を感じていた。

しかし、さすがに夕日に向かって走り出しはしなかった。