緒永廣康 「ソメチメス」(sometimes)61

41.ただその四十分の為だけに(「告別演奏會顛末記」その後)(23)

 

 「それで、お葬式には行ったの」ヒナコがクマにそう尋ねた。梅雨明けは未だ正式に

は伝えられていなかったが、午後の校舎の屋上には心地良い風が流れ、遠く駒沢給水塔

の青いドーム状の屋根がやけにくっきりと浮かび上がって見えた。

 「いやそれが、なんでもごく内輪で済ませたみたいでチャコも行ってないんだ」

 「そう、でも何だかクマさん、仁昌寺先生が亡くなってから元気が無いみたい」 

 「そうかな、そりゃあ知っている人が死んでしまうのは、やっぱり気が滅入るよ。未

 だそんなに経験がある訳じゃないけど、歳取ったらそんな事も当たり前になるのか

 な。当たり前になりたくもないけどね」

 「そうねえ」ヒナコはそう言うと後の言葉を探すように空を見上げた。

 「もうじき夏休みだね、去年の今頃は文化祭の演劇の練習ばかりやってたけど、随分

 昔の事みたいだ」クマも空を見上げてそう言った。

 「父帰る、でしょ。私あれ見てない。何してたのかなあ、その時」

 「あれは結構観客が多かった。もっともこの学校の文化祭で演劇の出し物は少ないか

 らね」

 「劇は準備や何だかんだ手間がかかって大変だから、誰もやりたがらない。でもクマ

 さんが一人で二年四組を纏め上げてやり切った、その実行力は凄いってメガネユキコ

 さんがいつも言ってる」

 「そんな事もないよ。最近特に自分は何も出来ないじゃないかと思う事が沢山ある」

 「どうして」

 「僕はね、今まであまり挫折って、したことがないんだ。大成功とまで言えなくて

 も、そこそこの成果は常に挙げられる・・・。そんな風に考えて来たんだ。でもその

 為には人に対しては随分気を使ってきた心算だし、ある意味考え過ぎな位にね。でも

 偶に、本当に偶になんだけど、信じられないようなミスを犯してしまう事がある。

 相手が自分に賛同してくれてると勝手に思い込んだり、特に何も言わなくても十分理

 解されていると勘違いしたり、それでいて言わなくてもいいような何気ない一言を言

 ってしまったりとか・・・。そしてそのせいで一瞬にして一番大切に思っていたもの

 をみすみす失くしてしまったり。何だか、僕って信じられない位バカみたいだな」

 「そんな事ないよ、少なくも私やムーは幸せにしてもらってるし、みんなクマさんの

 事が好きだよ」

 「何故なんだろう、そこにその愛とか恋だとか普通ではない特別な感情が入ってくる

 と、突然物事を冷静に判断出来なくなって必ず間違った事をしでかすんだ。そしてそ

 の間違いは殆ど致命的で取り返しがつかないような影響を与えてしまう」

 クマはそれだけ言うと少し困ったような顔をして黙った。するとヒナコはいきなりク

 マの頬にキスした。クマが驚いてヒナコの顔を見ると、彼女は照れ臭そうに呟いた。

 「ナッパさんじゃなくてゴメンネ、でも私、誰にでもこんな事はしないよ」

クマはそれには答えず頷き、少し間を置いて言った。

 「もっとバカな話をしようか。僕がナッパと付き合い始めた時、どんな事を考えてい

 たと思う。僕はもう音楽なんか止めてしまって、勉強に精を出し、いい大学に入って

 いい会社に就職して、そうやってナッパと幸せな家庭を築く事を真剣に考えたんだ。

 全く笑っちゃうよね」

 ヒナコはただ黙って首を横に振った。

 「ところがね、あっという間に振られてしまって。それで今度はもうありふれた幸せ

 になんか背を向けて音楽だけに生きようなんて、全く逆方向に方針を変えたりするん

 だ。それってどう思う」

 「クマさんは考え過ぎなのよ。そんなに突き詰めなくても物事はなるようになるもの

 よ」

 「ケル、ケッサラか」

 「えっ、ドリス・デイの歌」

 「いや、それはケセラセラ。そうじゃなくてサンレモ音楽祭ホセ・フェリシアーノ

 が歌った方」

 「あっ、知ってる。越路吹雪が歌ってた」

  「そうそう、越路吹雪と言えば "イカルスの星" はいいよね」

 「えー、クマさんってそんなのも聴くの。それとももしかして宝塚ファンだったりし

 て」 

 「いやあ、宝塚ファンはアグリーの母上がそうだけど」

 「ふうん、そうなんだ。アグリーどんのお父さんは警察なんでしょ」

 「うん、あのあさま山荘があと二、三日延びていたら現地に行く事になっていたみた

 い」

取り留めの無い会話を止める者は誰も居なかった。そしてクマは『何故、ナッパとは

こんな風にフランクに話せなかったのだろう』と改めて考えていた。

                 f:id:napdan325:20190628113153j:plain

緒永廣康 「ソメチメス」(sometimes)60

40.ただその四十分の為だけに(「告別演奏會顛末記」その後)(22)

 

 ヒナコさんグループでの活動を続けながらも、クマは来年二月に迫った大学受験の事

を忘れた訳ではなかった。そしてその為に相変わらず授業終了後は真っ直ぐ帰宅し、午

睡を取った後夕食を済ませて深夜三時頃まで机に向かい、翌朝七時に起きて登校すると

いった生活を続けていた。

 そのような時間の過ごし方はある程度ストイックになることが必要とされるが、クマ

は様々な誘惑に対し一旦背を向けてしまえば、再びそこへ戻るという事は極めて少な

く、またそれに苦痛を感じる事も無かった。もっともそれは=勿論年齢的には禁じられ

ているにせよ=煙草やアルコールといった常習性のある物を一切嗜んでいないから言え

る事かも知れなかったが。

 彼はまたテレビに対しても、その頃NHKで「刑事コロンボ」という非常に興味をそそ

る番組が土曜日の夜放送されており、クマの両親と姉は揃って視聴していたが、その時

間クマだけは一人で二階の自分の部屋に行き一度もそれを見た事がなかった。

 彼が唯一見るといえばコロンボの前に放送される同じNHKの「ステージ101」だけ

で、その番組の音楽監督を務める東海林修の編曲に興味があったからだったが、もう一

つ理由があり、それは大集団のヤング101の中の髪が長く瞳が輝いて見える温碧蓮と

いう女性が、あのナッパの面影に通じるところがあるような気がして、彼女の姿を見る

事も楽しみだったせいもある。その意味から言えば彼は未だナッパという存在に背を向

ける迄には至ってはいなかった事は間違いない。

 

 そんなある日、クマにセンヌキから電話が掛かった。

「オタク、夏休みどっかの講習を受けるの」

「いや、別に何も考えてなかったけど」

「だったら一緒に行かない」

「うん、でもアータは国立志望でしょ、コースが違うんじゃないかな。だいたい何処に

行こうという話」

「共通する教科はあるし。それで代ゼミはちょっとなんだから、一橋学院がいいんじゃ

ないかと思うんだけど」

代ゼミって良くないのか」

「いや、有名過ぎて大衆向けなんじゃないかと」

「そんなもんかな、まあいいけど。一応親の承諾が無いと金が出て来ないんで、それを

聞いてから返事するよ。応募の締め切りとかあるの」

「まだ充分余裕がある」

「オーケー」

結局その夏、クマはセンヌキと一緒に予備校が募集している夏期講習に通う事になっ

た。

  クマは受験する大学を私立文系に絞っていた。それは何と言っても数学が殆ど理解出

来ていない事と、国公立大学よりは受験科目が少ないからで、逆にその事は国語、英

語、社会の三教科だけで勝負する事を意味し、広く浅くなのか狭く深くなのか、どちら

が得策であるか判断に迷うところだった。とくに社会では日本史、世界史、倫社など選

択肢が別れる為、試験そのものがまるでギャンブルのように時の運に左右される可能性

は否めなかった。だが、それはクマだけに限った話ではなく、受験生全員に対し平等で

あり特に不平不満をいう筋合いではない事は言うまでもない。

 

 夏期講習行きを決定して数日後、クマが午前中で授業を終えいつも通りそそくさと教

室を出ようとした時、チャコがドタバタと走って彼を追いかけて来た。

「Long time no see、どうしの

「あの・・・」彼女は息を切らして暫く物が言えない状態だった。「あの、仁昌寺先生

が・・・亡くなったの」

それを聞いて今度はクマが言葉を詰まらせ「えっ・・・」っと短く声を発したまま、暫

く自分の足元を見つめたままであった。しかし極度の驚愕が悲しみの感情をかき消して

しまったのか、彼は妙に平然と落ち着いているかのように見えた。

チャコが続ける。

「先生は秋田県玉川温泉っていう湯治場にずっと行っていたんだって。それでしばら

くは体調も安定してたらいしいんだけど、二週間くらい前、急に具合が悪くなって救急

車で病院に運ばれて、それでそのまま意識が戻らなくて、一昨日の晩息を引き取ったん

ですって」

それを聞いてクマは暫く沈黙したが漸く口を開いた。「うん、そう、そうなんだ。そう

か、仁昌寺先生は死んでしまったんだ」クマはゆっくりと一言ずつ嚙み締めるように言

った。それはそうする事によって今聞いた話を事実として自分に納得させていたのかも

知れないが、頭の中では全く別の事を考えていた。

『それにしても今時湯治なんて前時代的な方法がガンに通用するのだろうか。そしてそ

れを選んだ仁昌寺和子という司書教諭は一体何を考えていたのだろうか』

そしてクマは唯一度きりの彼女との会話を思い出していた。それは五月の暖かな日差し

が注ぐ図書室だった。

 

「どうかしましたか」知らぬ間にクマの横には司書教諭が立っており、怪訝そうな顔

をしてそう訊ねた。

「先生」クマは今まで一度も口をきいた事のない彼女に対し、思わず自分でも予期せぬ

言葉を発した。

「先生は取り返しのつかない出来事を経験した事はありますか」

「・・・それは何度もあると思うけど。例えば歳を取ったりとか」

「いいえ、そんなのではなくて、何て言うのか、そう、言わなくてもよかった事を言っ

てしまったりとか」

「・・・今こうして会話をしているけれど、私は私が作り上げた君という虚像と話して

いると思うの。こう言えば君がどう反応するか、君の隣に作ったもう一人の君の顔色を

うかがいながら、次の言葉を探しているの。だから、どれだけ言葉を尽くしても、それ

は想像の領域のコミュニケーションでしかない。でも私達は切れば血の出る現実に生き

ている・・・言っている意味が解る」

部屋の中に、話の内容とは裏腹な司書教諭の屈託のない声が響いた。

「多分、判る、と、思います」クマは考えながら答えた。

「だったらオーケー。失恋でもしたの、人を好きになるのは理屈じゃないわ。大抵は一

瞬の気の迷いか、大いなる勘違い。まあ若いんだから元気を出しなさい。月並みな言葉

だけれど」

「先生は恋愛に何か含みでもあるんですか」クマは思わず笑顔で言った。

「そんな事はないけど、でも些細な言葉の行き違いで壊れてしまうような繋がりなら、

元々大した事が無い証拠。そんな関係なら幾らでも転がっている。それで相手が本当は

何を考えているかなんて誰にも判る筈がない。だって自分で自分の事さえ判らないんだ

から。君は完全に自分自身を把握していると思う。人は誰でも、決して日の当たらない

月の裏側みたいな部分を持って生きているって、私はそう思うけど」

クマがまだその言葉の意味を頭の中で整理している間に、彼女はもう一言付け加えた。

「まあ、でも嘘はダメね。特に直ぐバレる嘘は。今日の午後、授業は無いと言うのは最

低。取り返しのつかない出来事を経験した事って、今日君を見逃してしまった事かも知

れない」

 彼女は笑っていたしクマも仕方なく笑うしかなかった。

 

 『何故だろうか、初対面の自分に対し彼女がそんな事を言ったのは』クマがそう考

えている時、チャコはまた別の世界に浸っているクマを半ば諦め顔をしながら黙って見

ていた。

      f:id:napdan325:20190526220208j:plain

緒永廣康 「ソメチメス」(sometimes)59

39.ただその四十分の為だけに(「告別演奏會顛末記」その後)(21)

 

 1974年9月27日。その日、世田谷区民会館で行われる文化祭まで残りあと三ヶ

月を切っていた。その舞台で「ヒナコさんグループ」に与えられる時間は未だ不明だっ

たが、演奏する予定のレパートリーの内、取敢えずムーはオリジナル二曲目も決まり、

ヒナコの一曲と合わせて取敢えずこれらは練習をすればいいだけになった。

 しかし当然その三曲では数が足りない。少なくとも三十分以上はステージに居る事に

なる筈であるから、後四、五曲は用意しなければならず、最も手っ取り早いのはアグリ

ーとクマが既に作った歌から選ぶ事であったが、それはいつでも出来る訳で、クマはヒ

ナコの顔を見る度に専らあと一曲何とかするようプレッシャーをかけ続けてきた。そし

てその日の練習でも同様、開口一番こう言った。

「ねえ、何か無いの。取敢えずさ、曲か歌詞か、どちらかがあれば後はどうにかするか

らさ」

「そうねえ、ないことは無いんだけど、ちょっとねえ、あんまりねえ」

「ちょっと何よ、いいからやってみてよ」クマに促されヒナコは自信なさげにギターを

持ち上げてボソボソ蚊の無くような声で歌い始めた。

「 ♪ 秋祭り 秋祭りのお囃子の音が・・・」彼女は最初の四小節を歌うとそこで止めて

首を横に振りながらクマの顔を覗き込むように見た。

「いいじゃない、ねえ」クマはアグリーに同意を求めた。

「全然オーケーだよ。季節感も秋でピッタしだし」当然アグリーは自分が与えられた役

割を果たす。

 それは極ありふれたフォーク調の曲で、しかもキーは定番のAm。これでもかと言う

程マイナーな歌だったが、散々せっついて出させたものであり今更貶す訳にも、まして

や別の曲を要求する事など出来る筈も無かった。

 一応最後まで通して歌を聴くと、クマはいつも携帯している五線譜を取り出し大雑把

な譜割をしてコードをすらすらと書き込みながら、ヒナコに確認した。

「タイトルは ” 秋祭り " でいいんだよね。そして歌詞は」

クマがそう言うとヒナコはスヌーピーの便箋を取り出した。

 

     秋祭り 秋祭りの人混みの中で

     あなたとはぐれて一人の私

     浴衣姿 裸電球

     赤い風船が手を離れ

     暗い夜空に消えてった

     

     秋祭り 秋祭りのお囃子の音が

     私の寂しい心に染みる

     金魚すくいに風船釣りと

     いつかあなたの事も忘れて

     一人はしゃいで夜は更ける

     

     秋祭り 秋祭りの終わったその後で

     気がついてみたら一人の私

     綿あめの甘い香りを残し

     散らかった神社の境内を

     秋風も寂しく吹き抜けた

 

「最高じゃん」アグリーが大袈裟に叫ぶと、ヒナコは照れ隠しなのか彼の背中を平手で

叩いた。

 一方「悪くない」そう呟いたクマの灰色の脳細胞にまたしても灯りが点灯した。

『そうだ、これはイントロと間奏で、CSNYかガロのような癖のあるリードギターを入

れれば、ちょっとはハイセンスになるのではないか』

 その為にはAmよりはDmの方がより自分としては弾きやすい、しかしキーは五度高く

なる。早速クマは自分がDmで演奏し、ヒナコの声のチェックをした。

 その結果一番音程が高くなる部分で時折声が裏返りそうになるものの、これは歌い込

めば何とか解消されそうだと彼は思った。

 クマは相変わらず、事音楽にかけては自分本位で冷酷な迄非情であり尚且つ容赦が無

かった。

「何かクマさんて高い声ばっかり求めてない」ヒナコは半ば呆れたように言ったが、ク

マは『それはもしかしたらその言葉は、暗に自分が未だあのアグネス・チャンが歌って

いるようなナッパの甲高い声の呪縛から解き放たれていない事をさしているのか』と考

えた。しかし彼はその事を声には出して言わなかった。

 

 その日もクマは家に帰るとヒナコの新曲に罹りっきりになった。そして何度か繰り返

しギターを弾いているとある事実を発見した。

『このコード進行は何処かで聞いた事があるぞ』

 試しにその思いついた歌を重ねて歌ってみると、彼の仮説は確信に変わった。それは

間違いなくコッキーポップというラジオ番組で流れている、ウイッシュという女性デュ

オが歌う「六月の子守歌」そのものであったのだ。

 クマは一瞬、人の秘密を暴き、隠れていた本性を垣間見たような、密かな快感に近い

感覚に陥ったが直ぐに思い返した。

『これはコード進行が同じだけでメロディーは全く異なるのであるから、何ら問題はな

い』

 それは全くその通りであり、少なくともクマが神とも仰ぐポール・サイモンの名曲

サウンド・オブ・サイレンス」を盗用し、「夜明けのスキャット」などという駄作を

恥ずかし気もなく世に出して印税を稼いだであろう『いずみたく』という名の作曲家よ

りはずっとましだ。そう考えたクマは折角の自分の大発見を封印する事にした。

 

 「秋祭り」のアレンジにはそれ程手間はかからなかった。基本的には典型的なスリー

フィンガーを使い、後半からは少しずつストロークを入れていってエンディングを盛り

上げるといういつものパターンだ。

『代り映えしないかな、でもそれ以外に何か方法はあるだろうか。精々6弦をEからD

にドロップする位か』

 いつしかクマの指は自然にCSNYの「Find The Cost of Freedom」で演奏されるニー

ル・ヤングの泥臭いギターフレーズをつま弾いていた。

          f:id:napdan325:20190430063815j:plain

緒永廣康 「ソメチメス」(sometimes)58

38.ただその四十分の為だけに(「告別演奏會顛末記」その後)(20)

 

 ムーの摩訶不思議な新曲を何とか征服した翌日、クマは「ヒナコさんグループ」を定

められた練習日ではなかったが緊急招集した。用件は勿論、自分が考え抜いたアレンジ

を皆に聞かせ称賛を得る為で、事、音楽に関しては気の短い彼にすればいつもの事だっ

た。

 その日の放課後、3-1の教室に三々五々メンバーと殆どマネージャーと化したメガ

ネユキコが揃う中、アグリーだけがいつになく暗い表情でやって来た。「どしたの」す

かさず全方位外交のヒナコが声を掛ける。

「ああ、今朝起きたら文太が死んでいた」

「えっ、文太」ヒナコが首を傾げた。それに対してはクマが代わって答える。

「手乗り文鳥の文太の事だよ」

「アグリーどんは文鳥飼ってたんだ」

「ああ、雛の頃からずっと、もう10年位になるんだけど」

「それって寿命が来たって事」

「いや、どうかな。そんなに弱ってたとは思えないんだけど。あの、歳取ると止まり木

から落ちたりするらしいんだ」

「ふーん、鳥って結構長生きするんだ。でも悲しい」

「そりゃあ、結構なついていたからね。文鳥は、知らないと思うけど優しくしてやる

と、飼い主にすがりついて来るんだ」

「人間よりも人間性があるのかな」クマは遠くを眺めるような目をして呟いた。

「人間はなまじっか余計な知恵があるからややこしいだけさ。それよか、その画期的ア

レンジとやらを聞こうじゃないの」

 「オッケー」クマはそう答えると、早速説明を交えながらギターを例のチューニングに

合わせた。EBDGAD、一体どうやったらそんなチューニングを思いつくのだろう

か。もしかしたら、マリファナとかいう覚醒剤でトリップしなければ考えつかないもの

かも知れない。しかしクマ達はマリファナどころか煙草さえ吸った事は無かった。

 アグリーは勿論そのチューニングを知っており、ムーとヒナコも3月の2-4フェア

ウェル・コンサートでI,S&Nが演奏した「グィネヴィア」という曲で聞いた筈だった

が、当然覚えてはいなかった。 仮にもし覚えていたとして、チューニング方法まで判る

筈もないが。それでもムーはまるで大事な授業を受けているような真剣な表情を浮か

べ、食い入るようにクマの一挙一動を見守っていた。

 チューニングが済むとそこからがクマの真骨頂であった。コード表などには一切記載

されていない弦の押さえ方をして、独特のコード進行を披露する。もし仮にそれらのコ

ードを表記するとしたら、多分sus4 や m(#5)という和音になると思われた

が、ある程度熟練したギター小僧でも、とてもコードネームを見て瞬時に押さえる事は

不可能な筈だった。

 そして、一通り曲の最後まで弾き終えるとクマはムーに気掛かりだった事を尋ねた。

「オリジナルのキーはCmだったけど、これだとEmになる。声が出るかな」

ムーは実際にサビの部分を歌ってみて、ニコッと笑った。「大丈夫です。ちゃんと出ま

す」

 それを聞いてヒナコはまるで子供を褒めるようにムーの頭を撫でたが、アグリーは少

し渋い表情を浮かべて言った。

「よく考えたと思うけど、これじゃあ一般受けはしないな。全くキャッチーじゃないん

だよね」

 クマは苦笑いしながら答える。「今更俺にそれを望む訳」

それを聞いてムーが久しぶりに男の子言葉で言った「僕はこれは素晴らしいと思う」

 「それじゃあこれで決定」三階の窓の外を鳶のような大型の鳥が、遠く多摩川付近の森

を目指して飛んで行くのを眺めながらクマがそう宣言した。そして『文鳥の寿命が十年

として、果たして鳶は何年生きるのだろうか。あの鳥だって哀れな文太のように、いつ

かは突然命が燃え尽きるのだろうな』ふとそんな事を考え、彼はその後、何の音沙汰も

無い癌に侵された若い司書教諭、仁昌寺和子の事を思い出している自分に気付いた。 

 

             f:id:napdan325:20190318005301j:plain

緒永廣康 「ソメチメス」(sometimes)57

37.ただその四十分の為だけに(「告別演奏會顛末記」その後)(19)

 

 結局、アメリカのニクソン大統領は辞任し、軍用ヘリコプターに乗ってホワイトハウ

スから姿を消した。極東の日本にそのニュースが報じられた頃、東京は漸く鬱陶しい

梅雨空が晴れて、次第に日差しが強くなって来た。そしてヒナコさんグループは週に1

度の練習を欠かさず続けていたが、レパートリーは相変わらずヒナコとムーのオリジナ

ル2曲のままで、それなりに仕上がっていたものの練習は今一つ盛り上がりに欠けて

いた。

 そんなある日、ムーが練習場所に発売間もないアイワのラジカセを持ってやってき

た。「これを聴いて貰いたいんですけど」彼女は少し恥ずかしそう言うとプレイボタン

を押した。ムーの男言葉は次第に無くなりつつあるようだった。直ぐにピアノの音がし

て歌が始まった。どうやら新しいオリジナルらしい。

 それは掴みどころの無い不思議な曲だった。一度聴いただけでは理解出来ない。もし

かしたら大傑作か、それともとんでもない駄作か。演奏が終わった時、誰も何も言わな

い。少し間を置いて漸くクマが口を開いた「もう一回聴かせてくれる」

 再びテープが回り始め、まるでインドの行者が瞑想を行っているかのよう時間が訪

れ、3分強が過ぎ、回転が止まると、今度はアグリーが言った。「渋いんじゃない」

 それを受けてクマも頷いた。「難しい曲だね。でもとてもいい、何と言うか、凄く個

性的。まるでデイビッド・クロスビーのデジャ・ヴみたいだ」

 その曲を知っているアグリーは『その通り』と言わんがばかりにうんうんと首を振り

ながら手を叩き、同意であることを示したが、聞いた事の無いムーとヒナコはそれこそ

狐につままれたようにキョトンとしていた。

 それを見てクマは説明しようと考えて二、三言葉を探した結果、多分理解して貰えな

いと思い直し、笑顔を浮かべただけだった。そして全く関係の無いことを言った。「キ

ーはCmかな。でもカポは使いたくないな」

「どうして」ヒナコが聞く。

「だって、カッコ悪いじゃない」

クマは何時の頃からか、ギターにカポタストを付ける事を極端に嫌うようになってい

た。それは折角楽器が持っている音域を自ら放棄するような行為、そう言えば恰好良過

ぎ、実際はただ単に面倒なだけだった。

「これ、コンサートでやれますか」ムーは心配そうな顔をしてクマを覗くように訊ね

た。

クマは「うん」とだけ答えて暫く宙を見つめた。そして漸く答えた。「このテープ貸し

てくれる」

 

 クマは家に帰ると早速テープを取り出しカセットデッキにセットしてプレイボタンを

押した。

ヘッドフォンの中で流れる曲は相変わらず摩訶不思議な旋律だった。『これをどうギタ

ーで伴奏し、コンサートで演奏するのか』クマは目を閉じたまま自分の眉間に皺が寄っ

ているのを認識していた。

 三度目の再生が終わった時、突然クマの脳裏にある言葉が蘇った。しかもそれは数時

間前自分が発した言葉だった。『まるでデイビッド・クロスビーのデジャ・ヴみたい

だ』

 『そうだ、その通り。デジャ・ヴに使われているチューニングを使えばいいのだ』

それはクロスビーがよく用いるEBDGADという変則チューニングで、それを使った「グ

ィネヴィア」という曲をクマやアグリーは3月の2-4フェアウェル・コンサートで演

奏していた。

 しかし、これでプレイするとキーはEmになって、オリジナルのCmから大幅に上がっ

てしまう。後はムーの音域に頼るしかなかったが、こと音楽に関してクマは全く相手を

思いやる優しさは欠落していた。そしてライブに充分対応出来るようアレンジを仕上げ

たのは、それから3時間後の事だった。

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緒永廣康 「ソメチメス」(sometimes)56

36.ただその四十分の為だけに(「告別演奏會顛末記」その後)(18)

 

  6月に入って鬱陶しい梅雨空が続いた。そして下旬から本格的に降り始めた雨は、

月が替わると台風8号の影響を受け、全国に甚大な被害を与えた。クマ達が住む世田

谷、目黒付近も一級河川多摩川や、彼等が通う都立深沢高校の傍を流れる呑川流域

に、多数の床上浸水が起きたが、幸い仲間の家は全て被災を免れた。

 月末にはアメリカ合衆国で国を揺るがす重大事件が発生。新聞やテレビはそのニュー

ス一色に染まり、連日特集記事や番組を報道し続けていたが、クマは一体何が起きて、

何が問題なのかよく理解出来なかった。

ウォーターゲートって何んなんだ」彼は先だって病院の受付で味をしめた、「とに

かく質問」という手段を試してみようと、廊下で会ったアグリーに聞いてみたが、彼も

また内容を把握しておらず、全く見当外れな「鉛の兵隊とニクソンがやって来た」とニ

ール・ヤングの”オハイオ” という曲の歌詞を呟いた後、「それより、コンサートで何や

るんだよ」と逆に質問する始末だった。

「うん、ムーの ”ぎやまんの箱” と、ヒナコの ”さようなら通り過ぎる夏よ” は決まって

るよね」そのクマの言葉にアグリーは黙って頷いた。

「それで、要はどれだけの時間というか、何分間、我々が貰えるかなんだけど、30分

ならやれるのはせいぜい5曲か6曲だよね。そうすると後4、5曲用意すればいいって

事になる。ここ迄はいいかな」

それに対してもアグリーは黙って頷く。

「それで、あの2曲はどっちもスローなんで、メリハリ付けるにはやっぱし速いのが欲

しいんだよね。それで考えたんだけど、一曲目はアータの”観覧車”を持ってくるのはど

う。A面トップだよ」 A面トップ、それはプロのミュージシャン達が発表するアルバ

ム、即ちLPレコードに於いて、最も重要な一曲目の事を言う。特に様々なレコードを聴

き漁っているアグリーは、有名なアルバムの様々な出だしを検討し、彼等がいつの日に

か世に問うであろうファーストアルバムのコンセプトばかり模索していた。

「あー、なるほど。でもチャンランシャを生ギターでやるんかあ」

「観覧車」は前年12月、アグリー、センヌキ、クマの三人でエレキギターを使い録音

したアグリーのオリジナルで、サビの部分が4拍子から3拍子に変わる、なかなかキャ

ッチーな曲だった。

「イエス。アレンジも考えた。変則Eオープンでやる、”青い目のジュディー"と同じ」

「はー、いきなり変則」、ともすればポップス色を失いかねない変則チューニングに、

アグリーは難色を示す。

しかし、何かと技巧に走りがちなクマの頭の中では、もう既にEBEEBEにチューニング

されたギターの音が鳴り始め、意識はまた別の世界へ行こうとしていた。「大丈夫、任

せてチョーダイ」まるで財津一郎のようなウラ声でクマが言った。

そこへ、たまたまセンヌキが通りかかった。「オタクら、歌は決まったの」

「ああ、今その話をしてたとこ。クマが”観覧車”を変則チューニングでやるって」

「えー、またー」

「そうだろー、そう思うだろー」

それを聞いて身の危険を察知したのか、急遽異次元から戻ったクマが、右の人差し指を

車のワイパーのように左右に振りながら言った。

「君達は何も解っていない」

 

 そんなやり取りがあって間もなく、「ヒナコさんグループ」が顔を揃え本格的練習を

開始した。

練習は基本的に週二回、場所は主に放課後の教室であったが、天気のよい日は校舎の屋

上に上がったりもした。

 「先ずは決まっている”ぎやまん”と”夏よ”を仕上よう」クマの号令の下、三人でチュー

ニングを合わせる。とにかくクマは徹底的に合わないと気が済まない性分で、微かな音

の揺らぎにも神経を尖らせた。440Hzの音叉を膝で叩き、ギターのトップに当てると

Aの音が出る。それに5弦の5フレットのハーモニクスを共鳴させると、音の違いが明

確に判る。クマもうこれを5年間もやってきた。そうやって合わせた5弦の音を基準

に残り全ての弦を合わせ、それが終わるともう一度同じ事を繰り返す。そして各弦をチ

ョーキングで引っ張りまた調律を確認。大した時間ではないが、周囲の者をウンザリさ

せるには十分だった。

「そろそろやる」クマの言葉に三人共やれやれという顔で溜息をつくしかなかったが、

アグリーとムーは必要に迫られて自分のギターをクマの音に合わせた。

 ”ぎやまんの箱”はムーが作った典型的なスローバラードのフォークソングだった。も

し、このバンドに参加していなければクマもアグリーも決して演奏するような曲ではな

かったが、今更そんな事は言えず、何よりクマは自分が持っている音楽的知識と技術の

全てをここに注ぎ込むと決めた以上、後戻りは出来なかった。

「三番まであるから徐々に盛り上げて行きたいんだけど、普通に考えれば2番まではア

ルペジオ、三番で一気にストロークってとこかな。他にはギター3本の内どれかにカポ

とか」クマは大雑把に自分の考えを述べた。

それに対しアグリーが答える。

「俺、ザクロッジのメンバーから12弦を借りてくるよ。そうすれば音も広がるし」

「オッケー、それはいいかも」

「ぼくは何をすればいい」ムーが口を開く。

実際のところクマはムーのギターを全く頼りにはしていなかった。それでも面と向かっ

てそうは言えないので、あまり伴奏の邪魔にならないよう間奏での簡単なソロを任せる

事にした。

 続くヒナコの”さようなら通り過ぎる夏よ”、この曲についてクマは既にプランを持っ

ていた。それは以前アグリーの”星の妖精”という曲で実証済みのギターアンサンブルを

使う事であり、具体的にはオーソドックス・チューニングのギターにDチューニングを

したギターを合わせ、そうする事により音域を広げきらびやかな響きが期待出来た。

「後は、新曲を幾つか揃える必要があるな」クマは自問して頷いた。

 

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緒永廣康 「ソメチメス」(sometimes)55

35.ただその四十分の為だけに(「告別演奏會顛末記」その後)(17)

 

 『変わってないな』六年前二週間余りの間、ずっと閉じ込められていたその建物を、

クマは久し振りに見てそう呟いた。そして正面玄関から中に入ると、ひんやりとして少

し消毒液の臭いが漂う空気が、彼の遠い記憶を呼び覚ました。

 過ぎ去った六年の歳月は決して短くはない。しかし誰にでも、何年経とうと決して忘

れない思い出はある。たとえそれが単に入院であったとしても、十二年の人生で初めて

の経験となれば尚更である。

そしてクマはまた、ある種瞑想にも似た思考の迷路に沈み込んで行った。

 『自分は幼い頃から喉が弱かった。風邪を引くと決まって扁桃腺が腫れ、咳が止まら

なくなる。そして四十度近くの高熱。眠っているのか起きているのか、夢か現か、或い

はそれとは全く別の何かか。そのような状態が三日三晩続くと漸く快方に向う。それが

いつものパターンだった。しかし、あの時は違った。

 「肺に白い影が見えるし、ラッセルが酷くなっている。国立第二病院に紹介状を書き

ましょう」医者が母にそう言った。ラッセル、それは一体何なのか。降り積もった雪を

強靭なプロペラで線路から吹き飛ばす黒い機関車みたいな、いや違う、あれは確かロー

タリー車だ。ラッセル車は、そう、アイロンのお化けみたいな形をした物』

 確かに彼はそんな風に様々な事柄に疑問を持った。それは何事も鵜呑みにせず、先ず

は疑ってかかるという姿勢。その事自体に全く問題はない。むしろあるべき姿だという

自負を彼は持っていた。ただ如何にして疑問を解消するのか。まだ小学生だった頃、彼

が置かれた環境は、彼の好奇心を全て満たす程整ってはいなかった。

 ラッセルの正体は不明のまま、国立の大病院での検査の結果、彼は即日入院治療とな

った。

『聞けばよかったのだ。それに答えられる誰かに』クマはそう思った。そしてそれが最

も安易で且つ確実そうな方策であることも知っていた。

 しかし、彼は出来得る限り自分自身で物事を解決したいと考える人間でもあった。

『そう、ラッセルにしても、入院中、何故ペニシリンを腕に打つのかという疑問も、そ

の場で医者に聞けば、多分小学六年生にも分かり易く説明してくれた筈だ。それをしな

いまま、最寄りの病院から紹介状を受け取っただけで退出し、また、ここ国立第二病院

も退院してしまったのは何故なのか。

 今ここで心に棘が刺さったままの懸案事項を解決しなければならない。長く閉じこも

って来た殻の破壊が、自らの手で出来るようになった事を証明する必要があるのだ。し

かし、それにしても今、自分は馬鹿馬鹿しい程芝居がかった言い方をしている。全く滑

稽としか言いようが無いな』

ともすれば大袈裟な表現方法に走る自分の癖を、クマはよく理解していた。そして、自

嘲しながら、ふと傍らにいるチャコに気づく。

『まずいな、また嫌味を言われるかも知れない。僕は別に異次元にいる訳じゃない』

「構わないわよ」チャコがクマの心の動きを見透かしたように上目遣いで言った。

「私、先生の居場所を聞いてくるわ」そして彼女は総合受付の方に向かって歩き始め

る。

「ああ。僕も一緒に行くよ。ちょっと確認したい事があるんだ」

 チャコが司書教諭仁昌寺和子の病棟を、年長者らしき女性に確認している間、クマは

受付のとなりに座っているひっつめ髪の若い女性に訊ねた。

「あのう、つかぬ事を伺いますが」

「はい、何でしょうか」彼女は顔を上げた。

「この病院の名前が国立第二病院と言うのは何故ですか」クマは少し照れ臭そうに言

う。

 受付嬢は一瞬眉をひそめ怪訝そうな顔をしたが、すぐに笑顔を作り、そして答えた。

「国立第一病院が新宿にありますが、それは知っていますか」

「いいえ、でも第二がある以上、第一があるのが普通ですよね」

「そうですね。でもそれだけではなくて、ここは昔は、海軍軍医学校第二付属病院と言

ったそうです。新宿の第一病院は元は陸軍病院だったので全く違う組織。ただ、第一付

属病院があったのかどうか。それ以上のことは私も判りません」

「そうですか、ふうん、そんな話があるんですね」クマは目を大きく広げ二三度頷い

た。

 実際のところ彼は非常に満足していた。得られた情報はごく僅かではあったが、そ

れをとても貴重な宝石みたいに感じた。

『何しろ、自分から相手に話しかけた事が評価できる。これで、帝国陸軍と海軍の違い

を調べれば、結構面白いレポートが書けるかも知れない』彼が太平洋戦争について知っ

ている事は決して多くはなかった。『今ならまだ生き証人が沢山いるし』

 「また何か考えていた」チャコはピーナッツコミックの登場人物が相手をからかう時の

ような目をしてクマに言った。

「どこだか分かった」彼は苦笑しながらチャコに聞く。

「それが、一昨日退院したんですって」

「えっ、治った訳じゃないよね」クマは確認するかのようにゆっくりと発音した。

「ううん、そうじゃないみたいだけど、詳しい事は判らないので、家に帰って母に聞い

てみます。ごめんなさい、よく調べておけば良かった」

「いや、全然。気にすることなんか無いよ」

「これからどうする」

「そう、家に帰ろうかな、色々ほったらかしにしている事もあるし」

「うん、先生の事何か分かったら連絡する。今日はありがとう」

「いいや」クマは精一杯の笑顔をチャコに向けて言い、そしてギターを弾くような手つ

きをした。

「それより僕はそろそろ仲間の所に帰らなきゃ」

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